2009/01/18

     
 

インフルエンザについて

 毎年冬になると話題になるインフルエンザですが、心配や不安が先行し、意外と正確な情報が伝わっていないと感じながら  毎年診療をしています。

 インフルエンザ流行期になった時・実際にインフルエンザにかかった時、慌てずに対応できるよう参考になればと思います。

     
   

まずは予防

熱が出た(インフルエンザにかかったかも?)ーどうしようー

検査について

インフルエンザの薬について

解熱剤は使えない?

脳症などの合併症が心配

熱が下がったからもう大丈夫?

 

     
   
 

まずは予防

100%インフルエンザにならないといった絶対的な予防法はありません。
(人、鳥、豚などとの接触を完全に断つことができれば可能かも・・・)

 

1、流行シーズン前の予防接種

2、自分の体調を整える(規則正しい生活とバランスのとれた十分な栄養)

3、こまめな手洗い、うがい

4、流行期には出来るだけ人ごみを避ける

5、マスクの着用

 

 以上のことはごく当たり前なですが、確実にインフルエンザ発症のリスクは減らすことができます。

   3〜4は、インフルエンザウイルスの侵入(感染)を未然に防ぐための予防手段。

   1、2は、インルエンザウイルスが侵入してしまった後の、体の抵抗力(免疫力)を高める予防手段。

 たとえインフルエンザに感染しても、十分な抵抗力(免疫力)があれば症状は軽くすんだり、発症もしないですんでしまいます。

 せっかく予防接種や過去にインフルエンザにかかったりして免疫ができていても、不摂生などで体調を崩していたりするとインフルエンザに感染した時にせっかくの免疫も十分働かずインフルエンザの発症を阻止できません。

 逆に、いくら体力があって体調が良くても、インフルエンザに対する免疫がなければインフルエンザに感染すれば発症してしまいます。

 「うがい」よりも「手洗い」の方が大切。意外と手に着いたウイルスが感染源として重要、うがいはウイルスが口や鼻に入った時すぐにできれば有効ですが、時間がたってしまったらどうしようもありません。

 マスクは予防だけでなく、インフルエンザになってから人にうつさない為にも着用が推奨されます。

 

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熱が出た(インフルエンザにかかったかも?)ーどうしようー

 インフルエンザの季節にお子さんが急に熱をだしたら?

 多くの場合、慌てて病院を受診しなくても大丈夫です。

 夜ならな翌日まで待てることがほとんどです。

 急な熱のあがり始めに、お子さんは不機嫌になり頭痛や腹痛を訴えたり、吐き気をもよおしたり、手足が冷たくなり震えだしたり、等の症状で慌ててしまうことがあると思います。

 急な熱のあがり始めのこのような症状は、しばらく(30分〜1時間程度、熱があがり切ってしまうまで)様子をみていると落ち着いてきます。これは、急激な体温変化に伴う身体症状で、何か重大な問題が発生したためではありません。

注意 しばらく様子をみていても、熱以外の上記のような症状が治まらないとき、けいれん(ひきつけ)をおこしたとき、どうも様子が変なときは曜日時刻にかかわらず受診出来る病院で診てもらうようにして下さい。

 症状が熱だけで、状態が落ち着いていれば夜間など慌てて受診するメリットはあまりないと思います。

 発熱してすぐに受診しても、インフルエンザなのか他の原因なのか診断を確定出来ないことも多く(参照:検査について)、特に夜間など熱の出始めの辛いときに移動したり診察を待ったりすることがお子さんの負担になり自宅で安静にしていた方が良いと思われることも少なくありません。更に理由はいろいろでも翌日の再受診が必要になることが多く、一番辛い時期に病院を行ったり来たりすることになってしまいます。

 インフルエンザ自体は、ほとんどの健康なお子さんの場合薬を飲まなくても安静にして水分や栄養の補給に気をつけていれば5〜7日程度で自然に治ってしまうものです。
 (インフルエンザの薬はA型に効果のあるシンメトレルが1998年、 A型B型に効果のあるタミフル・リレンザが2001年に保険適応となり使用され始めましたが、それ以前はインフルエンザに効果のある薬はありませんでした。)

 インフルエンザに対する薬が使用され始めたことで、明らかに症状が軽くすむことが多くなり、中耳炎や肺炎などの併発症も減ったようにも感じます。
 ただし、インフルエンザ脳症などの重大な合併症に対する薬の効果は確認されていません。

 脳症等の合併症は心配だとは思いますが、最初からその発症を予測することは難しくインフルエンザにかかってしまったら確実に予防する手段はありません。
 合併症に対しては、合併症を疑わせるような症状・徴候(参照:脳症などの合併症が心配)を見逃さないように様子を観察し、早期に発見し対処することが重要となります。

 

(補足)

 平成17年(2005年)以降にタミフル使用と異常行動の関連性が問題となり、現在はその使用に注意と制限が必要となっています。


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検査について

 現在あたりまえのように行われている外来でのインフルエンザ迅速検査は、A型インフルエンザのみ検出可能な検査が1999年に保険適応となり実際に使用され始め、その後改良が繰り返されA型・B型を別々に検出できるようになり急速に診療の場で行われるようになりました。

 検査はインフルエンザかそうでないか100%確定出来るものではありません。

 検査を行う時期(症状がでてからの経過時間)、検体採取の手技など様々要因によりインフルエンザだったとしても検査が陰性になることがあります。

 適切な時期に適切な手技で検査をおこなっても(90%以上ですが)100%にはなりません。

 発熱に気がついて間のないと検出されないこと(陰性)が比較的多く、時間をおいて再検査すると陽性になることがあります。
(午前中検査で陰性でも、夕方再検査で陽性であったり翌日再検査すると陽性になっていることがあります )

 発症後4〜5日以上経過しても 検出されないこと(陰性)が増えてきます。

 また、B型インフルエンザの検出率はA型より劣っています。

 一方、インフルエンザ流行期には、非常に軽い症状(微熱やだるいなど)でも検査で陽性となることも少なくありません。

 診断は、検査だけでなく、その地域・集団(家族・保育園・幼稚園・学校など)でのインフルエンザ発生状況や症状など総合的に考え判断する必要があります。

 また、検査の手技は鼻に綿棒を挿入するためいやがる子が多い検査ですが、適切な検体を採取するためには十分に鼻の奥まで綿棒を挿入しなけらばならず、手加減をして検査してしまうと信用できる結果が得られなくなってしまいます。

 

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インフルエンザの薬について

 まず、インフルエンザの治療薬は、予防接種などの予防法にとって変わるものではありません。インフルエンザにかかってしまったら、治療薬があるからといって脳症など重大な合併症を確実に防げるものでもありません。

 

 ノイラミニダーゼ阻害薬(商品名:タミフル、リレンザ)について:

 A型・B型インフルエンザ両方に効果のあるインフルエンザ治療薬として2001年保険適応となり使用され始めました。

 現在、インフルエンザの薬といったらタミフルのことといっていい状況だと思います。

 A型・B型インフルエンザ両方に効果が期待できますが、B型に対する効果はA型に対するより劣っています。

 投与法として「発症24時間以内に投与開始する」となっているため、24時間以内に飲まないと効かない(治らない)といって慌ててしまう要因になっています。

 ほかでも述べましたが、インフルエンザはほとんどの健康なお子さんや成人(高齢者を除く)では、ゆっくり療養することで5〜7日程度の経過で自然に治る感染症です。

 「発症24時間以内に投与開始する」とは、薬の効果は投与開始することで症状を軽くし発熱期間を短縮させることですが、5〜7日程度で自然治癒する訳ですから、24時間(2日)以上経過してから投与開始しても、自然の経過と比べてもあまり経過が変わらないことを意味しています。

 また、薬が多く使われると薬が効かない耐性インフルエンザウイルス出現のリスクを増やすことになるため適切な使用が推奨されています。

 薬の添付文書の中にも「治療に用いる場合には、抗ウイルス薬の投与がA型又はB型インフルエンザウイルス感染症の全ての患者に対しては必須ではないことを踏まえ、患者の状態を十分観察した上で、本剤の使用の必要性を慎重に検討すること。」と記載されています。

 2003年にはタミフルの世界生産量の60〜70%が日本で使用されました。このことから、良いことなのか悪いことなのか別にして、世界の中で日本が独特の状況にあることが分かります。

 インフルエンザ流行期の診療は、インフルエンザの検査と薬が登場したこと一変してしまいました。この時期の外来での血液検査や点滴などの処置は確実に減ったのも事実です。

 ただし、脳症などの重篤な合併症に対する効果は確認されていません。

 日本のインフルエンザ診療現状は、「インフルエンザですのでインフルエンザのお薬をだしておきます」となっています。これを今から「インフルエンザですので、薬は必要ないので自宅でゆっくり療養してください」に変えられるでしょうか?

 

(補足)

 平成17年(2005年)以降、タミフル使用と異常行動に伴う事故との関連性が問題視されるようになり、その使用には注意や制限が設けられるようになりました。

 詳細については、「インフルエンザ薬(タミフル)について」を参照して下さい。

 ただし、タミフル使用に関わらず、異常行動などの症状はインフルエンザ脳症や高熱でうなされた(熱性せん妄)などでも認められるため、インフルエンザ発症後最初の数日は注意して看病する必要があります。

 

 アマンタジン(商品名:シンメトレル)について:

 もともと抗インフルエンザ薬として1964 年に発表されていましたが、日本では抗インフルエンザ薬ではなくその他の作用(抗パーキンソン治療薬など精神神経作用薬)の薬としてのみ認可されていました。

 1998年にA型インフルエンザの治療薬として保険適応されました。

 B型インフルエンザには効果がありません。

 インフルエンザの治療薬として用いる量や投与日数で、他の一般的な薬と比べ特別扱いするような副反応はありませんが、経験上「夜うなされる」ことが多くなるように感じます。

 また、使用後数日で高率に耐性ウイルスが出現することが確認されています。

 新しいインフルエンザ薬(タミフル・リレンザ)の登場と耐性化がすすんだため、現在はほとんど使用されなくなっています。

 

 抗生剤は合併症がなく、もともと慢性疾患などでリスクのある方たちなどを除けば通常必要ありません。

 

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解熱剤は使えない?

 原則:インフルエンザに限らず、発熱時に安易に解熱剤は使わないようにしましょう。

    熱が高いからといって、通常熱が原因で何か身体的に重大な問題がおこることはありません。

 

 インフルエンザの合併症(ライ症候群、インフルエンザ脳症)との関係から小児に対して使用しないこととなっている下記に示す特定の解熱鎮痛剤があります。
 (注:これらの解熱剤鎮痛剤を使用しなくても合併症は起こることはあり、これら薬剤が合併症原因ということではありませんが、その使用が合併症発症のリスク要因の一つと考えられています)

 1、サリチル酸系解熱剤(アスピリン=アセチルサリチル酸、エテンサミド、サリチルアミド等):

     バファリン、病院で処方される総合感冒薬 等

     市販されている大人用の感冒薬や解熱鎮痛剤の中にも上記成分を含むものがあります

 2、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン等)

 3、メフェナム酸(ポンタール等)

 

 これら薬剤を含む薬は、小児科医であれば感染症の解熱剤として使用することはありません。

 小児科医が使用する解熱剤は、アセトアミノフェン(カロナール、アルピニー、アンヒバなど)やイブフロフェン(ブルフェンなど)で、これらと合併症の関連はないとされています。

 市販されている小児用の感冒薬の解熱成分や解熱鎮痛剤はアセトアミノフェンとなっています。

 

 解熱剤は、病気を治す薬ではなく、一時的(薬の効いている間)に辛い症状を楽にするためだけの薬です。熱があっても状態が落ち着いていれば解熱剤を使う必要はありません。

 ただし、絶対に使ってはいけない訳ではなく、インフルエンザであっても熱で辛い状態が続く時には極端な我慢をする必要もありません。

 熱が上昇している時は辛いことが多く、お子さんも不機嫌になったりしますが、熱の上昇期は少し辛抱して熱が上がりきってしまえば案外とお子さんも落ち着いてしまうものです。

 熱の上昇時に慌てないで、少し(30分から1時間程)様子をみて熱が上がりきった時にお子さんの状態が落ち着いたら解熱剤は使う必要はありません。この時期に解熱剤を使用しても、解熱剤の効果が十分得られなかったり、効果がでて熱が少し下がっても薬の効果が切れればまた熱が上がってきて辛い症状が繰り返されます。

 当然熱があれば、ゴロゴロ寝たり・多少機嫌が悪かったり・いつもより元気がなかったりなどいつもの状態が違うと思いますが、ぐずり通しのようなことがなければ出来るだけ解熱剤は使わずお家の方が介抱して様子をみてあげて下さい。

 

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脳症などの合併症が心配

最初に:

 「インフルエンザに限らずいわゆる普通の感冒を含めたどんな感染症でも、頻度の差はあるものの重大な合併症がおこる可能性があります。」

 「最初から合併症の発症を予測することは難しく、合併症を疑わせるような症状・徴候を見逃さないように経過を観察し、できるだけ早い時期に症状・徴候に気づいて対処することが重要です。」

 

脳症について:

 インフルエンザ脳症は、5歳未満の乳幼児に多く、約8割の方が熱が出始めて1日以内に症状を認めています。

 注意が必要な症状として、けいれん、熱性せん妄(理由もなくおびえり、訳のわからことを言ったり、意味不明の行動をとるなど)が挙げられ、これらの症状を認めたときには医療機関を受診し、その後の意識状態の変化をみながら注意深く観察する必要があります。

 ただし、これらの症状があったらみんな脳症という訳ではなく、多くの場合結果的に「熱性けいれん」や「熱でうなされた」といったことが多いと思います。

 逆に、この症状がなければ脳症は心配ないということでもなく、何か様子が変と思ったら受診することをお勧めします。

 熱がでて最初の診察で脳症をいきなり指摘されることはまずないと思います。受診後、上記症状を含め何か気になるような時に医療機関を受診することが大切です。

 

その他合併症について:

 インフルエンザは、合併症などの問題がなければ通常4〜5日程度で熱が下がり始め回復に向かって行きます。

 4日以上たっても熱が下がらないような時には、中耳炎・気管支炎・肺炎などの合併症をチェックする必要がでてきます。

 ただし、合併症を疑う場合熱だけではなく多くの場合他に特徴的な症状を認めます。

 中耳炎なら耳を痛がったり、熱だけ以上に不機嫌であったり、気管支炎・肺炎なら咳がひどいとか息が苦しいなどそれぞれを疑わせる症状があります。

 また、経過中に嘔吐を認めたり等で水分補給が十分にできないような時には脱水症の注意も必要です。

 全てここで網羅することはできませんが、熱が4日以上続く、熱以外にきつい症状がある等の時は医療機関を受診して診察を受けるようにして下さい。

 

(補足)

 タミフル使用と異常行動の関連性が問題視されていますが、タミフル使用に関わらず、異常行動などの症状はインフルエンザ脳症や高熱でうなされた(熱性せん妄)などでも認められるため、インフルエンザ発症後最初の数日は注意して看病する必要があります。

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熱が下がったからもう大丈夫?

1、熱が下がったら治ったと思ってすぐに無理はしないで下さい。

2、熱が下がっても人にインフルエンザをうつす可能性があるので、すぐに出歩かないようにしましょう。

 

 熱が下がっても、体力や免疫力が低下しているのですぐに無理はしないで、数日余裕をもって休むようにしましょう。筋炎や心筋炎といった合併症は回復期になってから起こる可能性もあり、また他の風邪をもらってしまったりするかもしれません。

 学校などの出席停止期間は「解熱した後2日を経過するまで」となっていますが、これはインフルエンザ治療薬が使われるようになる以前に決めれた基準で、インフルエンザ治療薬を使用していなければ「解熱した後2日」の時期には周囲の人にインフルエンザをうつす可能性は低くなっていることがほとんどでした。

 インフルエンザ治療薬を使用した場合は、この基準は適応できません。

 インフルエンザ治療薬を使用した場合、「解熱した後2日」の時期にはまだウイルスを排出し周囲の人に感染する可能性があります。

 インフルエンザ治療薬を使用した場合の標準的な基準はまだ存在しませんが、通常インフルエンザ治療薬(ほとんどはタミフル)は5日間処方されますが、少なくとも薬を内服している5日間はいくら状態がよくても休むべきだと思います。出来れば、インフルエンザになったら1週間は休んでもらいたものです。

 学校などの出席停止は、「インフルエンザになった子どもに休養をとらせるため」でなく「インフルエンザの流行をおさえる(他人にうつさない)ため」の措置であることを忘れないで下さい。

 

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